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オルゴールの来し方行く末

「何歳になられたんですか」と聞かれることが多い。よっぽどの老人に見られているのか、はたまた日本人というのは外国人の年齢がよくわからないのか・・・・とは言っても、実はワタシも自分の年齢はよくわからない。100歳を超えているのは確かだ。その筋の専門家の鑑定によると115歳くらいだろうとのこと。

どこの生まれかって?体に刻まれているプレートから、ドイツのライプツィヒであることは間違いない。その地で、このワタシ、ディスクオルゴールが発明されたのだよ。

父親はパウル・ロッフォマン。小さいディスクから大型のドラム、ベルつきのものなど21種類ほどのオルゴールを生み出した発明家である。ディスクオルゴールが最初につくられたのが1886年というのは確かだから、ワタシはそののち1900年代だろうというわけだ。おわかりかな?(日本は明治時代、日露戦争の頃。庶民はみんな着物を着ていて、食事は一汁三菜、もちろん音楽を再生する機械などはない時代である)。

さて、そんなワタシがなんでここ「くらしのくら」に鎮座しているかって?正直なところ、美声を奏でて活躍する時よりも眠っている時のほうが多いのでよくわからんのだよ。でも、日本から貿易会社の担当者がドイツまで来て、「こういうものが結構売れるんでね」とワタシを含め10台ほどお買い上げになったことはよく覚えとる。船便で日本に渡ったのが、1991年。日本は空前のバブル景気の余韻がまだ残っておったなあ。その兄弟のうち4台がまさか一つの邸宅で老後を過ごすことになろうとは想像もしていなかった。

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(*ディスクを交換する際、手の脂がディスクにつかないよう手袋が置いてある)

金融業界では名前の知られた風雲児らしい我がご主人様、ポンとキャッシュでワタシを「息子」にしてしまったね。それも特別な感じがしないのがバブルっていうものらしい。ま、マンションが飛ぶように売れていたワケだし、マンションを買うよりもオルゴールは手続きも簡単なワケだし・・・・邸宅の玄関には高さ1メートル90センチ、鉄琴つきのディスクオルゴールが置かれ、ワタシは、エアコン付きの居間にすえつけられた。(他の2台は倉庫へ)。4台の兄妹の中で一番活躍し、一番大事にされたのは言うまでもない。

初めてのお客様が来訪された時は皆、爪だらけのディスクを驚いて見つめてくれる。そしてゼンマイが巻かれ、ディスクがゆっくり回転し始めると部屋中にふくよかなサウンドが広がる。スピーカーは無いのだが、どこから聴いても同じように響き渡る、どうだ、すごいだろう。

お客様はみんな、オルゴールであることを忘れる。そして、耳をすましてワタシの奏でるメロディを聴いてくれるのだ。そしてはや23年。日本での老後生活もあと100年続くのだろか。最近は来訪者も少なくなってきたせいかゼンマイを巻かれる日々も希になった。ご主人様も相当お疲れのようで、今はチラッっとワタシを見るだけのことが多い。ワタシは相変わらず元気なのだが、「人間」っていう奴は「モチ」が悪いもんだ。

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(*この突起がディスクの爪をはねて音を出していく。このオルゴールには75弁あるが数が多いほど幅広いメロディを演奏することができる)

そんなわけで眠っていることのほうが多い最近なのだが、ある日「くらしのくら」というリサイクルショップのスタッフが来訪し、久しぶりにオルゴールメロディー奏でましたよ。

話を聞いてみると、ワタシのご主人様、近いうちに田舎へ引っ越すらしい。
「きちんと正当な評価をしてくれたので、くらしのくらにいい貰い手を探して欲しい」
だって?ワタシは終の棲家と思っていたんだから、事前に相談くらいしてくれてもいいのに!ちょっぴり怒ってますよ。

というわけで、ワタシはここ「くらしのくら」におる。
「音色が素晴らしい!スピーカーも無いのに、音が店全体に広がるのがすごいよね」
「毎日、1曲づつかけてお客様に楽しんでもらおうよ」
てなことを、店にワタシが着いた当初はスタッフが言っておった。
でも今や、お客様のリクエストがあるとき以外はゼンマイを巻いてくれるスタッフも無く、居眠りしていることの多いワタシでございます。

ですから、皆様!この画像をクリックして下さいませ。
画像は退屈ですが、この音色聞いて下さいませ。
110歳をとうに超えているとは思えないでしょうが!

補足資料

シンフォニオン社製 75弁ディスクオルゴール
ディスク(直径37.7センチ)10枚付き
ボックスはメープル材、幅550ミリ、奥行き490ミリ、高さ330ミリ
台(オーク材)は高さ760ミリ
参考価格2,600,000円

オルゴールにはピンを取り付けた円筒を回すシリンダー・オルゴールと突起のついた円盤を回すディスクオルゴールがある。18世紀初頭にシリンダー・オルゴールが発明され、19世紀にはシリンダー・オルゴールより安価で、量産できる上に、ディスクを交換することができるディスクオルゴールが作られた。(動力源はゼンマイを手で巻くことによる)。

それによって、今のCDのようにディスクを交換することで曲目の変更ができるようになった。爆発的に普及したものの、次に発明された蓄音機(レコードプレイヤー)にシェアを奪われ衰退した。

全国にオルゴール博物館はあるが、関東近辺では山梨にある「萌木の村オルゴール博物館」が有名。世界中のオルゴールを鑑賞し音色を楽しむことができる。

「くらしのくら」では、ご来店いただきましたらいつでもリクエストに応じてディスクオルゴールの音色をお聞かせできます。ただ販売中ですので、「売り切れ」の際はご容赦下さい。(「萌木の村オルゴール博物館」には「くらしのくら」にあるシンフォニオン社製ディスクオルゴールと同じ形のものが展示されています)。

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