モノ語りヒト語り

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奇妙な風景

ある日「一人住まいのお母様の認知症が進み介護施設に入所することになり、家の中のモノを片付けたい」と着物や食器、家具の買い取り依頼があった。今まで、月に1度程度お母様に会いに来ていたが、近くのヘルパーさんに身の回りの世話をお願いしていたらしい。今後は家をリフォームして賃貸にする予定とのことであった。 

お伺いすると、20年ほど前の木造一戸建てで、お年寄りが一人で生活していた質素さと清潔さが部屋に漂っている。六十代と思われるその息子さんに案内されて、2階の和室にある桐箪笥の中の着物を拝見した。箪笥は四、五十年ほど経過しているだろうか。

まず、箪笥の上部にある小引き出しを開けてみると、そこにはハンカチが数枚あるだけである。下の引き出しには着物と帯が入っているのだが、うっすらとしか入っていない。着物のお買い取りでお伺いした際には、どの箪笥にも着物はびっしりと重ねられているのが普通である。大抵、「湿気を避けてカビを呼ばないためには、隙間なく着物を重ねて入れないほうがいいですよ」と、アドバイスするものなのだ。着物のお買い取りで相当数お伺いしているが、その箪笥のアリヨウはいささか異様であった。なにかが抜けている感じがする。

「部屋中見てみたんだがいつも使っていたバッグなどが無い。いろいろ無くなっているとしか思えないんだ。一緒に住んでいたわけではないので、もともと何があったかわからないから、どうしようもないんだ。」

また、一階にある食器棚も外から見るだけでその風景が妙なのだ。ところどころ穴が空いたように食器が無い。

「確かに、生活している状態の食器棚とは違いますね。何か無くなっている感じはしますね」
「な、そうだろう。おかしいよね。でも果たして無くなったのかどうかも確証がないんだ。母親が使っていたものを全部覚えていないし・・・・・・」

真実のほどはわからない。なんかの間違いか誤解かも知れない。ただ、多くのお家にお伺いして着物や食器をお買い取りしてきた私達が違和感を感じたのは確かである。

「しょうがないよね。だから、値打ちのあるものは残っていないかもしれないけど、査定できるものは持って行ってくれる?」
気持ちの収まりのつかない依頼主に掛ける言葉もなく、一緒にあちこち品物を検分して終わった一日であった。

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