モノ語りヒト語り

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アンティークは日本も巡る

年をとると昔のことは覚えているが、間近なことをすぐ忘れてしまうらしい。私はどういう訳か、昔のことはとんとわからないのだが・・・・・・

昔のご主人様はイングランドに住んでいた・・・・・・つまり私もイギリス生まれであることは確かである。

その道に詳しい人間によると優に100歳を越えているらしい。大西洋を渡ってこの日本に来たのが5年前、東京のアンティーク家具店で身づくろいを施されて、日本人のご主人様に仕えていたのもたった2年、海外フニンとかで私は「くらしのくら」という店に貰われることになった。

それから一ヶ月、何人もの人間にあちこちを触られて品定めをされるのは嬉しいが、やはり人の住んでいる部屋が一番私は落ちつくのである。

或る日、、品の良いコートを羽織ったおばさまが私をまじまじと見つめてこう言った。

「このミラーバック、シックでいいわね。ミラーの周りの彫りもデコ調で、私の部屋にきっと合うんじゃないかしら。・・・・・・でも横幅がちょっと大きいかな・・・・・・もしかしたら入らないかも。すみません。寸法メモしてくれます? 一度、部屋のスペースを測ってから又来ます」

そのおばさまはしばらく姿を見せない。何せ横幅1m強のチェストに大きなミラーを載せた巨体である。今は小顔が人気とか。いざとなるとハードルは高くなるのかも知れない。

しばらくして、家具が大量に入ったらしい。入れ替えの為に一番目に選ばれてしまったのがこの私であった。この店ではあまり好かれていないのだろうか。私はトラックに積み込まれて大きなオークション会場に運び込まれた。

そのオークション会場で私を競り落としたのは、ヤフーなどインターネットオークションで家具を販売している若いネット業者であった。彼らはこのような家具市場で商品を仕入れ、ネットで売りさばいて無店舗ビジネスで業績をあげているらしい。

あっという間に私は写真をネットに公開され競り落とされた。落札者は何と都内に店舗を構えるアンティーク家具店であった。オーナーは私を店頭に置くこともなく、トラック内に置いたまま数日が過ぎた。

ある日、私は突然、大きな庭のある家の玄関先に運ばれた。一瞬驚きのまなざしで私を見つめたそのおばさまは、あの「くらしのくら」でお会いした方ではないか。

「私ですよ、私!」と思わず声を出したが、聞こえるわけがない。

「前にお客様からリクエストのあったミラーバック、ようやく入りまして・・・・・・早速お持ちしました。直接見て頂けましたら、必ず気に入って頂けると思いまして・・・・・・」
「そ、そうね。このタイプが欲しかったのよ・・・・・・」

チェストのテーブル面左端に色のかすれがあり、ミラーの下部には今で言う「加齢」の染みもあるのだが、お客様の視線はその些細な箇所を外さない。

商談はまとまり、私はこのご主人様の寝室に収まることになった。人間の商売とは不思議なものである。人から人へ渡るたびに取引がなされ、利益とか損失を生み出していくものらしい。何回繰り返されようが最終的な金額はほぼ変わらないというのも面白い。最も今回のご主人様は少しばかり損をしたようではあるが・・・・・・

「本当にびっくりしたわよ。「くらしのくら」にあったものと全く同じモノよ。だって塗装のはがれも、鏡の下にあったシミも同じだったんだから。一体どうしたのよ。買おうと思っていたんだけど、旅行に行ってしまって連絡できなかっただけなのに・・・・・・。この店より少し高かったけど、こうなったら払うしかないじゃない。一体どういうことになっているの・・・・・・」

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