モノ語りヒト語り

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パリならぬノトのめぐり逢い

世の中には奇遇というものはあるものである。

一年ほど前の秋、能登半島を旅行した時、奥能登の珠洲にある
「湯宿 さかもと」に泊まった。
その宿は林道のような細い道をたどって突如現れる一軒の切り妻の家。
紅葉のアーチの奥深くにポツネンとある姿は楚々としていながら毅然としている。

「湯宿さかもとHPより」

正面の障子の開き戸を開けて声をかけても誰も出てこない。
広い土間に大きな銅鑼とバチがかかっていて、それを叩いてみる。宿中に荘厳な音が響き渡る。
女将さんと思われる女性が現れ、部屋を案内してくれる。中央に吹き抜けの囲炉裏があり、
囲むように二階に部屋が配置されている。廊下には共同の銅葺きの洗面所(三、四人が一緒に
使える広さ)がありその奥に小さな湯がある。
家屋はすべて石川県の木材あすなろで仕上げてありあたたかい。

「何もない」と謙遜する旅館だが、いわゆる無駄なサービスは何もない。
部屋にテレビも電話もトイレもタオルも歯ブラシもない。
もちろんウエルカムドリンクとやらもない。布団は自分で敷く。
何もないが「宿のしつらえと絶品の食事と取り囲む自然が最大のおもてなしということだ。
部屋は一間(ひとま)で狭いが清潔で、雑木林から吹き込む光と風が美味しい。
湿地を抜けて行くとゲストハウスがあり、そこでは自分でコーヒーを淹れてくつろぐことができる。この部屋には床暖房があるようだ。

夕食時には宿泊者がみなで囲炉裏を囲む。
今回は夫婦連れが一組、男子の二人組みと私たちの六名。
この宿には三部屋しか無いので満室だったことになる。
息子さんと思われる青年が一膳ごと給仕してくれる。
吹き抜けの天井の梁に据えられたスピーカーからはクラシックが流れる。
(朝は賛美歌である)

松茸づくしの料理が出る節は大人気らしいのだが、少しばかり早い訪れだった。
毎朝港まで買い出しに行くこの宿のご主人は料理には造詣が深い。
自分たちの庭で収穫した野菜や自分で飼っている鶏の卵(卵焼き)、
地元の素材(イカの刺し身)を活かした料理は、温泉宿にありがちな派手さや
食べきれない量とは縁遠い素朴な家庭料理のようだ。
実際、この湯宿のご家族はここで生活しているらしい。
つまり、その宿の主の台所で調理されているのだ。
評判の自家製のがんもどきはそれが豆腐であることを忘れさせる複雑な味を醸し出す。
料理が盛られる器も派手ではない素朴な味わいの器で料理を引き立てている。
夕食後に供された新米の焼きおにぎりは子供時代の田舎へタイムスリップさせてくれた。

食事の席の隣の方と話をしているうちに、そのご夫婦は陶芸家で
この湯宿の食器も手がけられたと知る。
作った器の展示会などで日本全国をまわっているので、全国の食べ物などに詳しい。
各地の野菜や果実を仕入れて料理する技などを淡々と話すのだが、
私には驚くことばかりである。
例えば珠洲にくればくるみを20キログラム仕入れ、窯をもっている沖縄では
モズクを大量にとって保存食にしているなど、その豪快奔放な生活を伺っていると、
供される料理を食べるどころではない。

夜、お風呂に入ろうと思ったが電気のスイッチがわからない。
とにかく、何も無いのがウリの宿である、在り処を聞くのも野暮というものである。
「ええいままよ!」とそのまま暗闇のお風呂に入っていると、
食事の席で隣にいた客人が・・・・・・・・。
この宿が二度目というこの方もスイッチがわからない。
家にある風呂のような小さな風呂桶(輪島塗りらしいが暗くて不明)に並んで入って、
月明かりに揺れる竹林をともに楽しむという希少な体験をした。
まさにハダカの付き合いである。
暗闇の湯の窓が絵画になるような温泉は果たして宿主の仕掛けであったのか?


「湯宿さか本HPより」

手書きの名刺(ネパールの山登りをした際に手に入れた日本の和紙に似ている
漉いた紙を数千枚持ち帰り、それを名刺大に裁断したもの)を頂いた。
この湯宿で出逢った陶芸作家は森岡成好さん由利子さん夫妻だった。
お二人の作品は「くらしのくら」で何回もお買取りさせていただいた。
不覚にもその巡り合わせに気がつかなかったのである。
リサイクルながら扱わしていただい器で、その作家と共に食事をするという奇遇を得たのは
「パリのめぐり逢い」(「男と女」のクロード・ルルーシュ監督、イヴ・モンタン、キャンディス・バーゲン主演 1966年公開)より素晴らしい。

くらしのくらHP  2018年7月2日「こんなモン買いました」ブログより

白磁の陶芸作家・森岡由利子さんのお品が入荷いたしました。

片口・高杯・ティーポットです。
新窯でゆっくりと焼いた柔らかな白磁が特徴で、
女性らしい柔らかさと優しさ・凛とした佇まいが素敵なお品です。

こういった遊び心が素敵ですよね。
ご夫婦で陶芸をされていて、ご主人は南蛮焼締の森岡成好さんです。
土の粗々しさと力強さが素敵な森岡成好さんと、
白磁の滑らかな質感と柔らかさが素敵な森岡由利子さん。
相対するようで、とても相性の良い作品だと思います。
お二人共とても人気の作家さんですので、入荷してもすぐに
次に使ってくださる方の元に旅立ってしまいます。
いつかご夫婦の作品を一緒に並べることができればいいのですが・・・。
くらしのくらでは、森岡由利子さん・森岡成好さんの作品のお買取りを
まだまだお待ちしております。
仲田

 
ブログ拝見いたしました。
最後まで読ませて頂きビックリしました!
こんな偶然あるんですね。
素敵な巡り合わせに感動いたしました。
私のブログが素敵なエピソードを綴るきっかけとなり嬉しいです。
仲田

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